昔に比べて子育て環境は大きく変化しています。
特に共働き世帯の増加に伴い、多くのこどもたちが乳幼児期から長時間にわたって保育園で過ごすようになりました。
朝早く登園し、夕方遅くまで集団生活を送る。
夕食の準備や就寝時間に追われる中で、家庭でこどもとじっくり向き合う時間は限られがちです。
こうした生活の中で、「子どもの教育や成長は、プロである保育士さんがいる保育園に任せておけば大丈夫」と考えてしまうのはごく自然なことです。
朝から晩まで頑張ってくれている保育園に感謝しつつ、家庭ではリラックスして過ごしたいという気持ちもよくわかります。
しかし、本当にそれで大丈夫なのでしょうか?
家庭でしか育めない「非認知能力」
もちろん、保育園はこどもの成長に欠かせない集団生活のルール、社会性、運動能力、そして基本的な生活習慣を育む素晴らしい場所です。専門のカリキュラムに基づき、年齢に応じた適切な知的な刺激も与えられます。
ですが、こどもの成長において、実は保育園だけではカバーしきれない家庭でしか育めない非常に重要な要素があります。
それが近年注目されている「非認知能力」です。
非認知能力とは、学力テストなどで測れない自尊心・自己肯定感・意欲・協調性・粘り強さ・感情のコントロール力といった、生きていく上で土台となる心の力のことです。
これらの力はテスト勉強のように詰め込むことで身につくものではなく、親との愛着形成と日々の安心できる関わりを通して、時間をかけて育まれます。
結論から言うと、「保育園まかせ」だけでは、こどもの心の根っこを深く強くすることは難しいのです。
今回は、忙しい中でも家庭でできる子どもの非認知能力と自己肯定感を育むための声かけと関わり方に焦点を当てて、具体的な方法を徹底解説します。
登園前・降園後:わずかな時間を「質の高い時間」に変える
登園前の慌ただしい時間を安心感に変える声かけ
朝の時間は大人が最も焦りを感じ、こどもを急かしがちな時間です。
「早くしなさい!」「もう時間がないよ!」といった声かけは、こどもの自己肯定感を削り不安を増幅させます。
大切なのは、たとえ短時間でも質の高い関わりを意識することです。
ポイント1:まずは「おはよう」のハグとアイコンタクト
起きたらすぐに、ハグや頭を撫でるなどのスキンシップを取りながら、目を見て「おはよう、〇〇ちゃん」と声をかけましょう。
- 【声かけ例】「今日も一日元気にいこうね!ママ(パパ)は〇〇ちゃんの笑顔が大好きだよ」
- 【効果】スキンシップと肯定的な声かけは、オキシトシン(愛情ホルモン)の分泌を促し、一日を乗り切るための安心感の土台を作ります。
ポイント2:こども自身に「選ばせる」習慣をつける
着替えや朝食など、簡単なことからこども自身に選ばせる機会を作りましょう。
- 【声かけ例】「今日の靴下は、この青いゾウさんと黄色いヒヨコさん、どっちにする?」
- 【効果】自分で選ぶことで、自律性と主体性が育まれます。「自分で決めた」という感覚が、園での活動への意欲にも繋がります。
降園後の「リセットタイム」を大切にする関わり方
お迎えに行った後、親は早く夕食の準備に取り掛かりたい、疲れて休みたいという気持ちになりますが、こどもにとっては園での感情をリセットし、親からの愛情をチャージする非常に重要な時間です。
ポイント1:すぐに「質問攻め」にしない
園での出来事が気になるあまり「今日何したの?」「お友達と遊んだ?」と質問攻めにするのは避けましょう。
こどもはまだ、園で経験した感情や出来事を整理しきれていない場合があります。
まずは寄り添い、ありのままの姿を受け入れることから始めます。
- 【声かけ例】「おかえり。いっぱい頑張ってきたね。ママ(パパ)にギューさせて」
- 【効果】何も言わずに抱きしめることで、言葉よりも早く「心が伝わります。
ポイント2:できたこと、頑張ったことを見つける
お風呂や着替えの時など、少し落ち着いたタイミングで園でのポジティブな行動に焦点を当てて声をかけます。
- 【声かけ例】「〇〇ちゃんが自分から靴を揃えられたって、先生が教えてくれたよ!難しいのにすごいね!」
- 【効果】:第三者からの評価(先生の言葉)を伝えると、こどもの達成感がより高まります。
自己肯定感を育む「魔法の言葉」:褒める・認める声かけの技術
「結果」ではなく「プロセス」を褒める
「上手にできたね」「100点取ってすごいね」といった「結果」だけを褒める声かけは、こどもを「成功しないと愛されない」というプレッシャーに追い込む可能性があります。
真に自己肯定感を育むのは、「努力」や「挑戦」、「試行錯誤」といったプロセスを認める声かけです。
結果を褒める声かけ(NG例) | プロセスを褒める声かけ(OK例) |
---|---|
「全部食べられてえらいね!」 | 「ピーマン苦手なのに、一口頑張って食べてみようとしたね!その挑戦する気持ちが素敵だよ!」 |
「上手に絵が描けたね!」 | 「一生懸命色を選んで、最後まで諦めずに頑張ったね。〇〇ちゃんの集中力はすごいね!」 |
「いつも一番で速いね!」 | 「最後まで諦めないで走ったね。一生懸命な姿に感動したよ!」 |
ポイント:「Iメッセージ」で自分の感情を伝える
「あなたがすごい」というYouメッセージではなく、「私(ママ・パパ)はこう感じたよ」というIメッセージを使うことで、共感的なコミュニケーションになります。
【声かけ例】「ママ(パパ)は、〇〇ちゃんが妹に優しくしてあげているのを見て、とても温かい気持ちになったよ」
失敗した時こそ「ありのまま」を認めるチャンス
子どもが失敗した時や、周りのお友達と比べて「できていない」と感じた時こそ親の真価が問われます。
ここで否定的な言葉やため息をついてしまうと、こどもは挑戦することを恐れるようになります。
ポイント1:失敗を「学びの機会」に変える
失敗を叱るのではなく「次はどうすればいいかな?」と一緒に考える姿勢が大切です。
- 【声かけ例】「牛乳をこぼしちゃったね。びっくりしたけど大丈夫だよ。どうしたら次はこぼさないかな?一緒に考えてみよう!」
- 【効果】失敗は悪いことではなく解決策を学ぶためのチャンスであると認識できます。
ポイント2:「大丈夫」という無条件の受容
こどもが泣いたり、怒ったり、感情的になった時も、その感情を否定しないことが重要です。
- 【声かけ例】「悔しかったね。思い通りにならなくて悲しいね。〇〇ちゃんの気持ち、ママ(パパ)にはわかるよ。泣いても大丈夫。」
- 【効果】「自分のどんな感情も受け止めてもらえる」という経験は、自己肯定感の核となり、将来的に感情をコントロールする力(レジリエンス)に繋がります。
非認知能力」を育む家庭での遊びと関わり方
遊びの中で育む「考える力」と「意欲」
保育園では集団での遊びが中心になりますが、家庭では「とことん付き合う」遊びを通して、こどもの思考力や意欲を伸ばすことができます。
ポイント1:完璧な環境より「不完全な環境」
家庭での遊びでは、おもちゃがきれいに揃っている必要はありません。
むしろ、自分で工夫して遊べるような、不完全な環境が子どもの創造力を育てます。
- 【例】段ボールや新聞紙、空き箱など、素材を提供し「これで何ができるかな?」と一緒に考える。
- 【声かけ例】「この箱、お家にする?それとも車にする?〇〇ちゃんが考えてみて!」
ポイント2:「共感」と「オウム返し」で対話力を高める
こどもが話している時、すぐにアドバイスや訂正をせずまずは「共感」と「オウム返し」で子どもの発言を受け止めます。
- 【こども】「今日、滑り台からね、ものすごく速くシュルシュルって滑ったんだよ!」
- 【親】「(共感)わぁ、速かったんだね!(オウム返し)シュルシュルって滑ったんだね!どんな気持ちだった?」
- 効果:自分の話が親に正確に伝わったと感じることで、自己表現力と対話への意欲が高まります。
お手伝いは「責任感」と「自己有用感」を育てる最高の教材
「お手伝い」は、単なる家事の分担ではなく、こどもに「自分は家族の一員として役に立っている」という自己有用感と責任感を育む、最高の教育の場です。
ポイント1:「完璧でなくていい」という大人の余裕
お手伝いをしてもらうと、時間がかかったり、かえって散らかったりすることもあります。
しかし、「早く終わらせたい」という気持ちを抑え、「やってくれてありがとう」という気持ちを優先しましょう。
- 【声かけ例】「お皿を運んでくれてありがとう!〇〇ちゃんが手伝ってくれると、ママ(パパ)すごく助かるよ!」
- 【効果】「自分の行動が誰かの役に立っている」という実感が、自己肯定感と社会性の基盤になります。
ポイント2:失敗してもやり直しはさせない
例えば、掃除機のかけ方が雑でも再度親がやり直す姿を見せないようにしましょう。
せっかくの意欲を削いでしまいます。
【声かけ例】「ありがとう!次はここもやってみようか?また今度、一緒にやろうね!」
保育園との「連携」:三位一体でこどもの成長をサポートする
保育園を「丸投げ先」ではなく「チーム」と捉える
家庭と保育園は、こどもの成長という共通の目標を持つ「協力し合うチーム」です。
どちらか一方に任せるのではなく、情報共有と連携を密にすることが、こどもの成長を最大化させます。
ポイント1:家庭での様子を積極的に伝える
保育士さんは園でのこどもの様子は把握していますが、家庭での様子まではわかりません。
- 【伝える例】「最近、家でブロック遊びにハマっていて、自分で図鑑を見ながら複雑なものを作ろうと頑張っています」「妹が生まれてから、少し夜泣きが増えました」
- 【効果】家庭での様子を伝えることで、保育士さんは子どもの興味や精神的な変化を把握でき、園での適切なサポートに繋げることができます。
ポイント2:園での「頑張り」を共有してもらう
降園時に短時間でも良いので「今日、特に頑張っていたことは何ですか?」と尋ねてみましょう。
- 【家庭での声かけに活用】「先生が、〇〇ちゃんがお昼寝の時に静かに絵本を読んでいたって褒めてくれたよ!静かに待つのが苦手なのに、頑張ったね」
- 【効果】園での頑張りを家庭で「見える化」し、承認することで、こどもの自己効力感を高めます。
忙しい親御さんへ:完璧を目指さなくて大丈夫
「量」より「質」:一日たった10分の「特別な時間」
「もっとこどもと遊んであげなきゃ」「もっとじっくり話を聞いてあげなきゃ」と焦る必要はありません。
忙しい中でも、毎日たった10分でいいので、「こどもの要求に100%応える特別な時間」を作りましょう。
「マジカル・テン・ミニッツ」の実践
これは「マジカル・テン・ミニッツ」とも呼ばれる、親と子が一対一で向き合う時間です。
- 【時間と場所を決める】夕食後など、親の気持ちに余裕がある時間を選びます。
- 【こどもに主導権を渡す】この10分間は、こどもがやりたいこと(パズル、お絵かき、ただの抱っこなど)を優先します。親は一切指示出しをせず、ただ寄り添い、肯定的に応答します。
- 【携帯・テレビから離れる】この10分間は、仕事や家事、スマホなど、すべての「親の都合」を遮断します。
この10分間だけでも、こどもは「自分は親にとって最優先される存在だ」と感じ、愛情タンクが満たされます。
これが次の日の自立した行動へと繋がるエネルギーになります。
「親自身の自己肯定感」も大切にする
子育ては、親自身が幸せでなければ心からの愛情をこどもに注ぐことはできません。
「〇〇しなければいけない」という完璧主義は、親の心もこどもを追い詰めてしまいます。
疲れたら休む。誰かに頼る。
【声かけ例】「ごめんね、今日はママ(パパ)ちょっと疲れてるから、一緒に横になって絵本を読む時間にしようね」
正直に自分の感情を伝えることも、こどもにとって「親も人間である」ことを学び、感情を適切に表現する方法を学ぶ大切な機会になります。
まとめ:家庭の温もりは、心の栄養
「保育園まかせで大丈夫?」という問いへの答えは、「保育園の役割はとても大きいが、それだけでは不十分」です。
保育園が社会性と知識を育む「幹」だとすれば、家庭は、自己肯定感と非認知能力という「根っこ」を深く、強く張る場所です。
忙しい現代社会において、量で勝負するのは難しいかもしれません。
だからこそ、「質の高い関わり」「愛着を感じさせる声かけ」を意識して、日々のわずかな時間を「心の栄養」に変えていきましょう。
こどもの「非認知能力」は、大人になって社会で生きていく上で、学力よりも遥かに重要な力になります。
- 結果ではなくプロセスを褒める
- 失敗した時こそ無条件に受け入れる
- 一日10分、子どもの要求に100%応える時間を持つ
この3つを意識するだけでも、こどもの自己肯定感は大きく育まれていきます。
今日から一つでも取り入れて、家庭での温かい関わりを大切にしてみてください。
それがこどもの未来を強く豊かにする一番の投資になるはずです。
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